逃した人魚
最初にカスミの隣にいたのは俺だったから。
喧嘩するし、なんでこんな奴と一緒にいるんだろうとか考えたことだってあるけど、なんだかんだでアイツの隣は俺のものなんだろうな、とか思ってた。
そんな考えを馬鹿みたいに信じ込んでた。
だけど実際にはアイツの隣は別に俺だけの場所じゃなくて、アイツだってそれを当たり前のように受け入れていて。
俺はアイツの隣を取られたと思って苛々したのに、アイツは俺の隣に誰がいようが別に気にしている様子もなくて。
アイツの隣が俺の場所だと信じていた自分が馬鹿みたいに思えて。
俺の隣はカスミの場所だと勝手に決めていたことに気づいて。
「逃した人魚は大きかったってことか」
俺の知らない誰かに向けて笑うカスミの横顔から目を逸らして、嘲笑を吐き出す。