模範的三角関係
付き合ってなんか無いと彼女と彼はいつも否定する。
でも顔を真っ赤にして慌てるから、周りは益々怪しんで、そして囃し立てる。
それを遠巻きに見ながら私の心は軋んだ音を立てる。
「ほんとに付き合ってないし!っていうか、鏡音のことなんか嫌いだし!!」
耳まで真っ赤にしてそう怒るグミちゃんにほんとのとこはどうなのよぉ?なんて問えば、ミクちゃんまでからかわないでよ!!ってさらに怒って。
「本当は好きなんじゃないの?」
誰もいない放課後の教室。日誌を書き殴るレンに言葉を投げれば、レンは手を止めて顔を上げる。
カタンと背後で者が落ちる音。多分、グミちゃんが黒板消しを取り落としたのだろう。
「ねぇ、どうなの?」
視線の先のレンの顔が赤い原因が夕日のせいなんかじゃないのは明確で。
「だ、だから付き合ってねえし!」
「私はグミちゃんが好きかどうか聞いたんだけど」
答えをぼかそうとするけどそれを許さず、繰り返し問いかける。
レンは口をぱくぱくさせながら暫く視線を泳がせ、
「す、好きなわけないだろ!」
そして怒鳴るように言った。
「……わ、私だって鏡音のこと嫌いだし!!」
聞こえてきた声に振り返ればグミちゃんが真っ直ぐに私、ではなくレンのことを見ていた。
その言葉にぴりぴりとした空気が流れ始め、レンが息を吸って、
「じゃあ、いいよね」
私の声に二人が私を見る。
「いいよね」
繰り返した私の言葉が分からず、二人が訝しげに私を見て、
「私が奪っても、良いよね?」
自分でも分かるくらいに満足に笑って、そう言う。
その言葉にグミちゃんは目を見開いて、固まってしまった。
それを見てからレンへと視線を向けるとまだ状況を飲み込めていないようで、名前を呼べば弾かれたように体を揺らした。
そんなレンに顔を近づければレンは慌てて体を引こうとした。だけどそれより先にブレザーの首元を掴んで引き寄せ、
「グミちゃん、貰っちゃうから」
耳元で言葉を落として、嗤う。
顔を離して見開かれた目を見て嗤えば、寸前まで赤みのあった顔から一気に血の気が引く。
「み、みみ、」
震えた声にレンのシャツから手を離して、レンと同じように顔を青ざめさせたグミちゃんを見る。
「なに、グミちゃん?」
「い、今……き、キス…・…!!」
「してないよ」
胸の前でぎゅっと両手を握って、今にも泣き出しそうな目のグミちゃん。
そんな彼女がとてもいとおしくて、ゆるりと笑いながらグミちゃんの元へと足を進める。
そして一歩手前で立ち止まり、グミちゃんの綺麗な緑の髪の長い部分を指で掬う。
「私がキスしたいのはグミちゃんだけだもん」
口付けた髪からは、彼女と同じで甘い、甘い、私を魅了してやまない香りがした。
(その矢印は到底模範的な方向に向いてはいないけれど。)
title by はちみつトースト