8日前 どんなチョコにしようか
「なに、それ?」
ソファに座ったレン君があまりにも真剣に雑誌を見ていてから、なんだろうと思って声をかけてみた。
するとレン君は顔を上げて「あぁ、グミか。おはよう」なんて、平然と返してきた。(少しくらい驚いてくれたら面白かったのに)
「バレンタインに何作るか考えてたんだよ」
そしてそう言って私に雑誌を差し出してくる。受け取って開いていたページを見れば、そこにはバレンタイン特集としてチョコを使ったお菓子のレシピが載っていた。
「レン君、作るの?」
「毎年作ってるよ。リンが逆チョコくれってうるさくって。最近はミクとかも便乗しだしたし」
「……ふぅん」
口では文句を言っているけど、その表情は柔らかい。そんなレン君に胸の中がもやもやして、返す言葉は素っ気なくなってしまった。
口にしてから失敗したと思ったけどレン君は全く気づいていない様子で、去年はガトーショコラを作らされたんだと話してる。
「そっか、じゃあ今年も頑張って」
頑張ってを強く強調して雑誌を突き返す。そうすればレン君は苦笑して、それから「そうだ」と言って、
「グミは何が欲しい?良かったらや」
「いらない」
「……グミ?」
喋っているのを遮って拒否すれば、レン君は目を丸くした。
そしてやっと私の機嫌の変化に気づいたみたいで、窺うように私の名前を呼んできた。
「何でもない」
そう返すけど、頬を膨らませているんだから嘘なのはバレバレで。
「どうした?」
手首を握ったレン君が優しい声でそう問いかけてきた。
それに対して沈黙を守れたのはほんの数秒で、だってと弱々しい声を吐き出す。
「自信なくす。絶対、レン君のチョコ美味しいもん。――それに、か、彼氏にはチョコ貰うより渡したいし」
つっかえながら言えば、レン君はきょとんとした目で私を見て、
「じゃあ当日楽しみにしてる」
そう言うと、笑った。
「あ。俺、トリュフが食べたいんだけど」
「む、無理言わないでよ!私が料理ヘタなの知ってるでしょ!?」
「知ってるよ。でも、そこは彼氏への愛の大きさでカバーだろ?」
「〜っあ、愛とか言わないでよ!恥ずかしい!!」
笑みの種類を意地悪いそれに変えたレン君に顔が熱くなって、彼を睨みつけながらも頭の中でレシピ本を買いに行く予定を立てた。
title by はちみつトースト