一番最初に
携帯のメール着信を告げる音にノートの上に走らせていた手を止める。
そしてノートの横に置いていた携帯を取れば、再び携帯が鳴った。
こんな遅くに一体誰が。そう思いながら液晶を見れば、2通の新着メール。差出人は日向君と伊月君。
先に来ていた方を選択して開けば、件名には誕生日おめでとうの言葉。
ぱちぱちと瞬きをして部屋の時計を見れば、いつの間にやら短針は12を差していた。
それを確認している間にもまた携帯が鳴って、慌てて他のメールを開くと同じように誕生日おめでとうと書かれていた。
『これからもよろしくな』
『練習3倍は勘弁してくれ!』
『頼りにしてるよ』
祝いの言葉に添えられた文に自然と頬が緩む。
日付が変わって5分経たないうちに2年生の部員全員からメールが来て、みんな覚えていてくれたんだと思うと凄く嬉しくなった。
「ありがとう、みんな」
心の底からの感謝の気持ちを口にして、
「!」
鳴り響いた着信音に液晶を見る。
そしてそれが音声着信だということとその相手に目を見開き、鳴り続ける音に通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。
「はい」
『こんばんは、黒子です。夜遅くにすみません』
電話の向こうから聞こえてきた黒子君の声。
「ううん、まだ起きてたから平気。どうしたの?」
何かあったのだろうかと思って問うと、黒子君は言い淀み沈黙してしまった。
なんだろうと首を傾げていたら、小さく息を吸う音が聞こえてきて、
「カントク、誕生日おめでとうございます」
続けられたのは、祝福の言葉。
まさか電話で言われるとは思わなかったから驚いてしまい、咄嗟に返事が出来なかった。
それを不安に感じたのか黒子君がカントク?と控えめな声で聞いてくる。
「あっごめん。ってそうじゃなくて、ありがとう、黒子君。他のメンバーはメールだったから、まさか電話で言ってくれるとは思わなくて」
「他の人からメール来たんですか?」
「2年生は全員メールだったよ。あ、1年は黒子君が最初」
「そうですか」
「うん。ありがとう、黒子君」
お礼を言って、練習の時に2年生にも直接お礼を言おうと考える。
「僕こそ、最初にカントクにおめでとうって言えて良かったです」
「え?」
そう言った黒子君の声が嬉しそうに感じられて思わず聞き返せば、
「来年は、先輩達より先にお祝いしますから」
そんな宣言をされてしまった。
その声はやっぱり嬉しそうだったから、私も笑って楽しみにしてるわなんて返したのだった。