五日間限定
「黒子君、明日誕生日だよね」
隣を歩いていたカントクが言ったことに、目を丸くする。
「そうです……けど、よく知っていましたね」
「まぁ、一応部員全員の諸々のデータは把握してるから。それに、誕生日近いからね」
「カントクの誕生日……2月5日でしたっけ?」
「そ。よく知ってるわね」
驚いた風に言うカントクにまぁ、一応とかなんとか言う。
随分前、先輩方の話の中で聞いて、ずっと覚えていたのだとは言えない。
「それでさ、なにかプレゼントいる?」
その言葉に足を止めそうになり、けれどなんとか足を動かし続ける。
「そんな悪いですよ。覚えていてもらえただけでいいです」
「遠慮しないでよ。ま、そうは言ってもジュース奢るくらいだけど。あぁ、黒子君はシェイクの方が良い?」
「じゃあ……」
そんな風に話しかけてくるカントクに、再び遠慮の言葉を言うことは憚られた。
だからカントクの提案に甘えてシェイクを奢ってもらおうかと思い、そこでふと頭の中に浮かんだ考えに開きかけた口を閉じる。
「?なに?」
首を傾げて見上げてくるカントクを見ながら、彼女が微塵も想像していないだろうその提案を口にしようか暫し迷い、決める。
「カントク。物じゃないんですけど──」
翌日。
本を読みながら学生の溢れる通学路を歩いていたら、聞き慣れた声に気づいて視線を上げる。
そして、視線の先にバスケ部の面々を見つけた。
本を閉じ、足を速める。
「おはようございます」
近づいて声をかければ、みんな驚いた様に振り返り、僕を視認すると挨拶を返してくれた。
それにもう一度挨拶を返して、その中の一人と目を合わせ、
「おはようございます、────リコ先輩」
心臓の心拍数が早くなるのを感じながら、呼び慣れない名前を口にした。
5日間だけの同い年。
その間だけは、名前を呼ばせてください。