くらいCRY
誰かの泣き声が聞こえて、目を覚ました。
そして、暗闇の中にいる自分に気づく。
自分の体は把握できるけど周囲は真っ暗。
「誰だ?」
どの方向から聞こえてくるか分からない泣き声に対して声を上げる。
けれど声は返ってこなくて、暫く迷った後適当に足を進めだした。
心の思う方へ。
どれだけ歩いたか、不意に大きくなった泣き声。
瞬きを一つすれば、いつの間にか暗闇が夕暮れ色へと変わった。
そして、すぐ目の前に誰かがいた。
俺と同じくらいの背丈の人物が、俺に背を向けて立っていた。
その人物が身に纏う黒いフード付きのコート、それは]V機関のもので。
「誰だ、お前?」
だけど、俺の記憶にこんな人物はいない。こんな泣き声は知らない。
そう思って随分前に自分が発した問いかけを繰り返せば、その人物は一度体を震わせた。
しかしそれ以外の反応をしない「誰か」の肩に手を伸ばして声をかけようとした時、
「ロクサス?」
鼓膜を震わせた声に、ハッと意識が覚醒する。
視線を動かせば、間近にあったナミネの瞳と交わった。
「どうしたの、ぼーっとしてたけど」
「ううん、なんでもない」
心配げなナミネに誤魔化すように笑って、潮の香りを吸い込む。
ナミネからその後ろに広がる海と空の青い世界へと目を移して、その眩しさに目を細めた。
夕暮れの世界の中で振り返った「誰か」の顔は、もう思い出せなかった。