キミ予報
天気予報はあんまり当てにしてない。
気象予報士の人とお天気キャスターのお姉さんと、あと偶に喋ってるお兄さんやおじさんには悪いけど。
学校のロッカーに入れっぱなしの折りたたみ傘はその現れみたいな物。
未来のことを予想するなんて、無理だろうと俺は考えるわけで。
「レンー!!」
不意に視界を占めた顔に目を見開き、体を仰け反る。
「おはよう!」
にこにこと、馬鹿みたいに満面の笑顔のグミ。一体何がそんなに嬉しいんだ?
それを口にして問う前に、グミが「あぁぁぁっ!!」と悲痛な声を上げた。
「英語の宿題やってない!」
ルカ先生に怒られるよぉぉ、どうしよぉぉ……!と、わたわた慌てるグミを見上げ、一つ息を吐き出す。
いつもの台詞が口にされるまであと二、一。
「レン、ノート見せて!一生のお願い!!」
「グミ、お前一体何回先の人生の分まで俺にお願いしてんだよ?」
頭を下げ、掌を合わせてお願いをするグミに嫌味を一つ。
うぅっとグミは言葉に詰まり、憎らしげに俺を見る。
そんないつものやりとり。パターン化しつつあるそれに呆れ混じりの息を吐き出しつつ、いつものように机の中からノートを取り出し、
「じゃあ、いいよ!自分でなんとかする!!」
いつもと違う話の流れに、え、と固まる。
呆けた顔で見上げる俺をグミは眉をつり上げて見て、べぇっと舌を出した。
「意地悪レンには頼らないもんね!自分でなんとかするよ!」
「意地悪って……やってきてないグミが悪いんじゃ」
俺の言葉を全部聞く前に、グミは自分の席へと小走りで戻っていく。
(この展開は初めてだよな)
鞄の中からノートを出して、教科書と睨めっこを始めるグミの後ろ姿をぼんやりと眺めながら思う。
落ちてくる緑の髪を耳にかける仕草に何故かときめいた。
瞼を下ろし、先程のやりとりを思い出す。
瞬く間に変わっていく表情はいつもと同じで、嫌味だっていつもとあまり変わらなかったのに。
彼女が取ったのは、予想もしない行動。
「ほんと、予想できないなぁ」
瞼を上げ、必死な様子でシャーペンを動かすグミを盗み見ながら、笑いを含んだ呟きを零した。