そんな始まり
それは別に大した感覚じゃなかった。
よく漫画にあるような体に電撃が走るようなだとか、世界が止まって見えただとか、全然そんなんじゃなかった。
ただ、それは胸の中にすとんと収まった、そんな疑問も不快感もない感覚。
あるべき場所に収まっただけ。
何となくじんわりと胸があったかく感じたけど、それ以外に何ら変化も変調もない。
「ん、どうかした?」
「いや、別に」
オレンジの髪を耳にかけながら、カスミは俺を見て小首を傾げる。
それに短く言葉を返せば、カスミは暫く覗くように俺を見てきたけど、不意にあっと声を上げると別の所に視線を動かした。
「見て、サトシ!水ポケモンよ!可愛いぃぃ!!」
瞳をキラキラと光らせ、頬は薄いピンクに染めたカスミを見て、さっきから感じている胸の温もりが少し温度を上げた。
服の上から胸の辺りに手を置き、自分の鼓動を感じ取れば、いつもより少しだけ鼓動のリズムが早かった。
(俺、カスミのこと好きなんだ)
好きと唇を動かし、微笑。
自分の中の気持ちに気づいた、そんなある昼下がりのこと。