「きゃあああっ!!」
鼓膜を叩いた奇声に足を止め、急に翳った視界に顔を上げ、
「!?」
視界の中に桃色を認識した時には、盛大に廊下に尻餅をついていた。
「〜〜っ!」
尻から全身へと回る鈍痛に音にならない声を上げる。
涙が浮かんできた目を、俺の足の上で目を回している桃色の髪をしたクラスメイトに向ける。そして、深い溜め息。
「……花巻」
「うぅ、いたた……ぶあああ!!?ふふふ、藤君!?な、なな、どど、どうして!?」
「階段を踏み外したお前に押しつぶされてんだよ」
「!」
目を見開いて、顔を赤くさせたり青くさせたりする花巻。
ひとまず退けというと、慌てた様子で立ち上がった。
自分も立ち上がり、制服を叩いて埃を払い落とす。
そうしながら、ちらりと花巻を伺って、
「なんで泣いてるんだよ」
俯き加減の瞳が潤んでいることに気づく。
俺の声に花巻はばっと顔を上げ、しかしすぐに顔を伏せた。
すると花巻の表情が見えなくなって、だけどその細い肩が震えているのは分かって。
大きく息を吐き出す。
そうしたら、花巻の肩がびくりといった感じに大きく震えた。
「花巻」
名前を呼んだら、また肩が震えた。だけど花巻は顔を上げない。
ぎゅうっと手が白くなるほど強く、チェックのノートを握りしめている。
かける言葉が思いつかず、がしがしと髪を掻いた俺の頭上で、授業の開始を告げる鐘の音が流れた。