良い夫婦の日
「良いお買い物したわー」
そう言ってハナコは両手に提げた買い物袋を見てにっこりと笑う。
(欲しいものは買えたし、美味しいものは食べられたし。幸せだわ〜)
そう思った時、頬に当たった冷たい滴に瞬時に嫌な予感を抱いて空を見上げると、曇天の空が目に映った。
そうしている間にも、降って来る雨は量を増し、
「お洗濯濡れちゃうっ!」
そう叫ぶと家に向けて走りだした。
「ちょっとサトシっ、そんな所に置かないで!濡れるでしょ!」
息せき切って家に入った途端、聞こえてきたのは聞き慣れた女の子の声だった。
数回瞬きをして、静かに玄関を上がりリビングを覗き、
「あら」
小さく笑い混じりの声を出す。
リビングには彼女の息子と、つい最近付き合い始めた息子の恋人がいた。
「煩いなー、カスミが早く干さないからだろ」
庭で乾かしていたはずの洗濯物をリビングの片隅の洗濯竿に干すカスミ。
サトシはというと、ソファの上に生乾きの洗濯物を置いたらしく、カスミに注意されては不機嫌な声で言い返していた。
「それくらいちゃんと持ってなさいよ!」
しかし、先程よりも大きいカスミの声に渋々といった感じにそれを持ち上げる。
「あっ、ママさん。お帰りなさいっ」
それを受け取ろうとしたカスミと目が合い、途端笑顔になった彼女を可愛いわねーと思いながらハナコはただいまと言葉を返す。
「カスミちゃん、お洗濯取り込んでくれたの?」
「はい、雨が降ってきたので。あ、干すのここで良かったですか?」
「ええ。ありがとう、カスミちゃん」
「いえ、お礼なんて……」
ぶんぶんと顔の前で手を振るカスミにハナコは微笑みを浮かべる。
「そうだよ、母さん」
そこに割り込んできた不機嫌そうなサトシの声にそちらに視線を向ける。
「取り込んだの俺なんだから。折角熟睡してたのに、こいつ俺のこと叩き起こしたんだぜ?」
サトシはそう言ってカスミを睨みつける。
「それはすぐに起きないあんたが悪いんでしょ!?」
「だからって殴るなよな!」
その言葉に怒鳴り返したカスミにサトシも言い返し、一度は収まった言い争いが再開される。
そんな二人を見てハナコは幸せそうに微笑み、
「カスミちゃん、早くお嫁さんにいらっしゃいね」
さらりとそんな事を言った。
一瞬の沈黙。そして、そのすぐ後。
「っ!」
カスミは顔を赤くし、
「母さんっ!!」
彼女以上に顔を赤くしたサトシは、上ずった大きな声を上げた。