守ったのは
「ん?」
神狩屋へと向かう途中、同じくらいの年のちゃらちゃらとした格好の男達を見かけた。
その男達は道の端で円になって話している。
否、自分達が作った円の中にいる誰かに向かって話しかけている。
嫌でも耳に入った男達の会話から、ナンパだと分かった。
いつもなら、立ち去るはずだった。
だって僕が愛するのは普通であって、ナンパされている女の子を助けるなんて論外だったから。
だから、胸に罪悪感を感じながらも僕は歩を進めようとした。
「……殺すわよ」
雪の如く冷たく、ナイフの如く鋭い声が聞こえるまでは。
「!?」
通り過ぎようとした足を止め、その集団を振り返る。
「雪乃さんっ!?」
そして、男達の隙間から見えた、予想通りの人物に思わず大きな声を上げた。
その途端、それまで周囲には少しも関心を払っていなかった男達が凄い目つきで僕を見た。
当の雪乃さんはと言うと視線だけを僕に投げて、そしてとても嫌そうな表情を浮かべて視線を逸らした。
その反応に嘆息しそうになって、近づいてきた男達に慌てて飲み込む。
「何だよ、お前。彼女は今から俺達と遊ぶんだから邪魔するんじゃねえ」
「え、いや、邪魔なんて……!!」
そう言いかけて、男達が作った壁の隙間から見えた雪乃さんに、その白い右手に握られた赤い柄のカッターナイフに目を見開いた。
「ゆっ雪乃さん、駄目っ!」
その瞬間男達の間をかい潜って、驚きに動きを止めた雪乃さんに駆け寄り左手を掴む。
「ちょっと、白野君っ」
そして、脱兎の如くその場から逃げ出した。
それから数分後、僕らは閑静な住宅街の中にいた。
膝に手を当てて体を折り、ぜえはあと荒い息をする僕とそんな僕を見下ろす、全く息を乱していない雪乃さん。
突き刺すような視線に顔を上げると汗の玉が額から頬を伝って流れ落ちた。
「逃げ切れたかな……ねえ、ゆき……」
息を整えながら言葉を紡ぎ、
「助けてくれなんて言ってないわよ」
「いや、でも……」
「迷惑よ」
被せられた冷たい声に苦笑いを浮かべて、雪乃さんがスカートのポケットにカッターナイフを仕舞うのを見つめた。