Letter from John Doe

ビリビリに引き裂かれた赤に、詰めていた息を吐き出した。シンと静まり返っていた空気が徐々に騒めきを取り戻していく。
「初日から何やってんだか」
「本当にねぇ」
組み分けの儀式にも姿が見えず一晩心配していたのだけど、まさか新学期早々盗んだ(語弊あり)車で暴れ柳に突っ込んでいたとは。
昨年もハリー達はトラブルに巻き込まれる子だと思ったけど、今年も初っ端からやってるなぁ……。
ドンマイ、ハリー。それにロンも。青ざめた表情のハリーとロンを心の中で慰める。
(良いことがありますように)そんな祈りも込めて2人を見つめたいたら、近くに赤毛を見つけた。

「ダメよ」
すかさずレイラの声がして、ぎくりと肩を強張らせる。
「あっちが謝ってくるまで、から声かけちゃダメ」
「あ〜いや、でもさ。昨日は結構愚痴ったけどね……私、もうそんなに怒ってはないんだよ?」
「それでもダメ。これで許したらウィネのためにならない」
取りつく島もない。どう食い下がろうか、考えた所で目の前の彼女にはお見通しで「何言っても無駄よ」バッサリ切られてしまった。
「ウィーズリーに接近するの、絶対禁止だからね」
「……わかった」
暫し睨み合った後、折れたのは当然私の方。

(早く謝りに来てよね)ハリーとロンを何やら励まし……いや、からかってるのか?双子に念を送ってみたけど、どちらも反応することはなくて。
もしかしたら長期戦になるかもという危機感は、ぬるい紅茶と一緒に飲み込んだ。






そんな会話をした朝から、早くも今日で10日目。
はあ〜〜っと重たい息を吐き出したけど、今朝は相槌を打ってくれるレイラは不在。「占い学って本当に遠いのよね。1時間目にやらないでほしい」って文句を言いながら、早めに朝食の席を後にしていた。
カップから薄く立ち上る湯気を無言で見つめて、もう一度息を吐く。

この10日間、ジョージから話しかけてくることはなかった。
すれ違い様に目が合うことや、何か言いたそうに視線を送られたことは何度かあった。だけどレイラがいたり、ジョージも友人が一緒にいたり、周りに人が多かったり……そんな感じで話をするタイミングがなかった。
加えて、自分の態度もまずかった。ジョージから話しかけてくるまで待てというレイラの主張を無視したら良かったのに、同意する部分も少しあって何回かわざと視線を逸らしていた。
その結果が、今。昨日なんかはもう視線も合わなかった。
(こんなことなら、意地張らないで話しかければ良かった)
後悔しても遅いけど、自分の行いを悔いるばかりだ。

(……このまま友達じゃなくなったらどうしよう)
頭の中に浮かんだ弱音にハッとなり、頭を振って追い出そうとする。
(だけど、もしも)
一度浮かんだ不安はなかなか霧散しない。
つい一年前に向けられていた嫌悪の眼差しを思い出して、ぎゅっとカップを握り込む。それは、嫌だ。
(……やっぱり私から話しかけよう)
決心してカップの中身を一気に煽る。今日はグリフィンドールと合同の授業は無いから、ご飯の時に捕まえなくちゃ。

――バサッ!
賑わいの減った大広間に羽音が響く。見れば灰色の梟が天井近くをくるくると旋回していた。
既に生徒の多くが授業へ向かったこの時間に郵便なんて珍しい。届け先の子が残っていたらいいけど。梟の配達が無事に終わるように願いつつ、授業に向かう支度をし始めた所で、鋭い気配を感じて顔を上げる。
「ん?」
そして、こっちに向かって一直線に降下してくる梟に気がつき、目を見開く。
(ちょっと!?もしかして、私!?)
慌てて食器を退ける間にも梟はぐんぐん大きくなる。黄色の目が間近に迫った時、梟は掴んでいた手紙を私の頭上に落とすと華麗に急上昇していった。
机上にヒラヒラと着地した手紙ーーらしきものに封筒はなく、便箋はノートのページを何度か折ってテープで留めただけのもの。外側に宛名も差出人も、ない。

読んでいいんだろうか?周りに他の生徒はいないし私宛であることは間違いないんだろうけど、ちょっと不安。だけど、好奇心には勝てなかった。
そろそろとテープを剥がして、一呼吸。折り畳まれた紙を開いて、開いて、開いて。
へ』の書き出しに間違ってなかったと一安心したのも束の間。
それは手紙というにはなんとも淡白なものだった。だって、紙の真ん中に書かれていたのはただ一文だけ。

『クィディッチ練習場に来て』

差出人の名前はやはりない。
名無しの誰かからの手紙なのに。


ジョージの顔が思い浮かんだのは、私の願望なんだろうか。



ジョン・ドゥからの手紙
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