俺は、が苦手だ。
「……何考えてんだ、お前」
「いふぁい、いふぁい!」
頬を抓られて非難の声を上げる相手に、眉を顰める。
「なんでがうちの寮に来るんだよ。お前はどう考えてもスリザリン一択だっただろうが!」
「はっへ!」
反論の言葉に頬を離す。力加減はしたつもりだったが、それなりに赤くなった?に少しだけしまったと思う。しかし当の本人といえば、自分の頬もこちらの胸中も全く気にする様子もなく、セレストブルーの瞳で真っ直ぐに見上げてくる。ーーああ、この澄んだ色が苦手だ。
「だって、シリウスがいるから。グリフィンドールに入る理由なんてそれで十分でしょ?」
一切の迷いもなく言い放たれた言葉。息を吸い込み、深く深く息を吐く。だって、じゃないだろ。
「……馬鹿か」
「馬鹿じゃないっ!」
頬を膨らませたに眉間を押さえる。いや、馬鹿だ。致命的な馬鹿だ。
「将来の旦那様と同じ場所で同じものを共有していくのは、婚約者として当然のことじゃない」
「だから、俺は結婚の約束をした覚えはないし、お前の親も反対してるだろ。それなのにグリフィンドール選ぶとか…親に何言われるか分かってんのか?」
「吠えメールは覚悟の上よ」
胸を張ってみせる年下の《自称》婚約者に、呆れて何も言えなくなる。ーーもう良い。婚約も組み分けもこいつが勝手に決めたことだ。俺が気にかける義理はない。後の事は自分でなんとかしたらいい。
そう結論付けて、口を開く。
そもそも俺は、幼少期にと交わしたという婚約の記憶はないし、それにの性格も見た目も全然タイプじゃないし。
言っておくが、純血主義のお前がウチの寮生とトラブったって助けないからな。それから、絶対に俺が自分の婚約者だなんて言いふらすんじゃねえぞ。そんなことしたら即婚約破棄してやるからな。(いや、婚約はしてないけど)
突き放し、釘を刺そうとした言葉は。
「それに……少しでも長く好きな人の、シリウスの側にいたいって思ったんだもの」
今までより頬を赤く染めたの発言に、呆気なく霧散した。
「大丈夫だよ、私分かってるから。だから、シリウス。お願い。あんまり怒らないでほしい、かな」
へにゃ、と困ったように笑う。さっきまでの強気な態度はどうしたんだよ。なぜかこっちが悪い様な気持ちになってしまう。
別に怒ってない。ただ、こんな俺を追いかけてわざわざ茨の道を選んだが理解し難くて、受け入れられないだけで。
「マジで俺、のこと苦手だわ」
どうにかこの先が平穏に過ごせないか、そう考え始めたことにも。
「驚いた。シリウスって、私のこと嫌いじゃないのね」と笑ったに小さく響いた心音にも、今は気がつかないふりをした。