爆破の報酬

「ピーター、ここの答え分かった?」
「ううん、まだだよ。は?」
「右に同じ」
頬杖をついてコツコツとペン先で羊皮紙を小突き、青空の広がる窓の外に目をやる。
「マクゴナガル先生もなんでこんな難しい課題を出すかなぁ。私が解けるわけないでしょうに」
マッチ棒を爆発させたぐらいでさぁと愚痴て、息を吐き出す。
そして、正面の席で教科書と睨めっこをしているピーターに視線を動かす。
「ちょっと焦げたくらいなんだから、見逃してくれてもいいよね。机に大穴開けたピーターよりはましだって」
「机を爆破して、床に焦げ目をつけたの方がだいぶ酷いと思うけど」
色素の薄い瞳を向けてきながら、ピーターは不服そうに返してきた。
その返答に唇をとがらせ、カナリアイエローのネクタイを弄くる。
「ねえ、ピーター。なんで私達は、折角の休日を図書室で過ごさなきゃいけないのかな」
「それはお前らが机をぶっ壊したからだろ」
溜め息とともに零した問いに、上から声が返ってきた。

鼓膜を揺らした声に顔を上げて、目を見開く。
机の横にいたのは、ホグワーツで知らぬ者のいない悪戯仕掛人の3人だった。
「ピーター、まだ終わらないの?」
「あと少しなんだけど・・・誰か手伝ってくれないかな」
リーマスの言葉にピーターが弱ったように3人を仰ぎ見て、
「僕は新しい悪戯を考えるので忙しいから」
「なんで俺が」
「君の課題だからね。頑張って」
返ってきた拒否の3つの言葉に、がっくりと肩を落とした。

目の前で行われるやりとりを、息をするのも忘れて見つめる。
悪戯仕掛人っていったら、ほとんどの生徒の憧れで、それは私も一緒だった。
頭も運動神経も良いジェームズに、容姿端麗で色々と目立つシリウス、それにしっかり者のリーマス。
その3人を一気に、しかもこんな至近距離で見てしまって、頭の中は真っ白だった。
、どうかしたの?」
ピーターの声に反応して我に返り、自分に向けられた4つの視線に気づいてびくっと体が震えた。
羽根ペンを持った手が、汗をかく。
一気に渇いた喉に唾を飲み込んで、震えそうになりながら口を開く。
「ぴ、ピーター約束があったの?私、一人でやるから行っていいよ」
視線を下に落としながら、消え入りそうな声でなんとかそう言って、口を閉じる。
落ちた沈黙に堪えきれなくて、談話室に戻ろうと思った時、
「お前、ピーターよりも進んでないじゃねぇか」
羊皮紙を取り上げられたことに驚いて顔を上げれば、灰色の瞳と目が合った。

直後、どくどくと心臓の音が鳴り出す。
瞬きもできずにシリウスを見つめていれば、彼ははぁと溜め息を吐いた後にぽんと私の頭に手を置いた。
「しょうがねえから、手伝ってやるよ」
そんな声が聞こえてきたけど、私の拙い頭では瞬時に状況を理解することが出来なくて。
「え、えぇっ!?」
火傷しそうなほど耳まで顔を真っ赤にしたのは、それから5秒後のことだった。