だれを見てるの?
デパートの一角にあるその雑貨店は、女の子達で溢れかえっていた。
硝子製のテーブルや可愛らしい飾り棚に並べられた華やかなアイテムに女の子の楽しそうな声が上がる中。
「可愛いっ!」
ふと視線を向けた先にあった、控え目なハートがあしらわれたリングに私は声を上げた。
「サトシっ!これ見てっ!
そう言いながら隣を向くと、居心地悪そうに視線を泳がせていたサトシがこっちを見た。
そして目の前に出されたリングに数回瞬きをする。
「これにしようよ!!ねっ!」
「うーん……却下」
「ええ〜っ!?」
サトシの答えに不満の声を上げ、非難を込めた視線を投げると、サトシは素早く視線を逸らし、
「あ、」
不意に小さく上げた声に、小首を傾げた。
そんな私を見ることなくサトシは無言で動き出し、慌ててその背中を追って店内を横切る。
そして、サトシが立ち止まったテーブルの上に並んだ商品に数回瞬きをする。
「髪留め?」
そこには大きさも色もデザインも様々な髪留めが数多く展示されていた。
それらを順々に見る私の横で、サトシは迷いなくその中の一つに手を伸ばした。
サトシが手に取ったのは、銀色のピンに水滴をあしらった綺麗な青い飾りが付いた、可愛らしいものだった。
「へえ……なかなか良いんじゃないの?サトシにしてはセンスあるじゃない!」
サトシのなかなかのチョイスにからかいを含んだ声でそう言ってサトシを見る。
そんな私の言葉にサトシは頬を赤くしながら私を睨んだ。
しかし全く効果の無いそれに私が更に笑みを濃くすると、サトシは悔しそうに視線を自分の手の中の髪飾りに落とした。
そして、
「似合うと良いな……」
顔の赤みはそのままにそう呟いたサトシが浮かべた笑顔に、目を奪われてしまった。
不安と期待が入り混じった様な不思議な感じの、だけどこれ以上ないほどに優しいその笑みに不覚にも胸が高鳴るのを感じて。
「じゃあ俺、これ買ってくるよ」
その言葉に我に返ると、サトシは既にレジへと足を向けていた。
その背中を見ながらまだ頭の中にはっきりと映る笑顔に小さく笑う。
(ちょっと、羨ましいかな……)
そんな笑顔を向けられる会ったこともない相手をちょっとだけ羨ましく思いながら、レジの前であたふたするサトシの姿に吹き出し、手助けのついでに買い物に付き合った見返りとしてハートのリングを奢ってもらうべく、意気揚々とレジへと向かった。