夢の話
誰もが一度は思い描く、ポケモンマスターになるっていうでっかい夢。
子どもが口にするのは微笑ましいけど、実際にそこに至るなんてのは本当に夢のような話で。
「いつになったらあんたの夢は叶うのかしらね」
溜め息混じりに言えば、サトシは自販機からサイコソーダを取り出しながら私を見た。
「わかんねぇ」
サトシは自販機にお金を入れてボタンを押すまでの間に少しだけ考えて、そう答えた。
「でも、絶対諦めない」
そう続ける。
いつまでそんな夢物語を語るんだと笑うことだってできた。
だけど。
出逢った頃と変わらない、寧ろその時よりも自信に満ちた力強い声や真っ直ぐな目を前にしたら、いつかきっと其処に辿り着いてしまうんだろうなと漠然とだけど確信してしまった。
「サトシなら辿り着くよ」
笑いながらそう言って、差し出されたカフェオレを受け取った。
「あ。そういえば俺、夢一個増えたよ」
視界の端で揺れる腰まで伸びていたオレンジの髪を見ていたら、そんなことを言いたくなった。
そしたらカスミはカフェオレを口から離して、丸く開いた目で俺を見た。
「え、そんなこと聞いてないけど」
「だって教えてないし」
「何それ!教えなさい!!」
詰め寄ってきて、強い口調で命令をしてきたから。
「教えない」
カスミがむかつくくらいに、意地悪く笑ってやった。
永遠に隣に居て欲しいなんて、まだ言えないけど。
いつの日にか必ず伝えるから、それまで待っていて。