触れるか触れないか
「い、いい?」
上擦ってしまった声に京子ちゃんがこくんと頷く。そしてそっと瞼を下ろす。
ぎゅっと胸の前で握られた手に自分の手を重ねる。もう片方は京子ちゃんの細い肩に乗せて、ゆっくりと顔を近づける。
だんだんとアップになる京子ちゃんの顔。白い肌は今は薄い赤に染まっていて、眉根を少し寄せている。
どくどくと異常なスピードで血を全身に巡らせる心臓の音が聴覚を支配する。背中を嫌な汗が伝って、肩に置いた手に力を込める。
あと、数センチ。甘い香りが鼻孔を擽って、
「っご、ごめん!!やっぱり無理!!」
ばっと京子ちゃんから離れる。
目を開けた京子ちゃんはわたわたと慌てる俺を見て、眉をハの字にして笑う。
「ううん、いいよ」
「ごめん、京子ちゃん……」
このやりとりも一体何回目になるか。
キスの一つも出来ない自分が情けなくて、溜め息を吐いた。
後もう少しなのに。
あと少しのその距離を縮められない自分が情けない。