あったかい
「寒い……」
白い息とともに言葉を吐き出し、ぶるりと体を震わせる。
ベルトに付けたモンスターボールから6つの心配そうな視線を感じ、少しだけだと慌てて付け足す。
しかし口では強がってみても体の震えは止まる気配が無く、指先は寒さを通り越して痛みすら感じていた。剥き出しの腕を摩りながら、鼻を啜る。
「……寒い」
「当たり前じゃない」
小声で零した言葉に返ってきた、心底不機嫌な声。
その声に弾かれたように顔を上げると、岩ばかりの薄暗い洞窟に慣れた目には眩しいオレンジ色が飛び込んできた。
「カスミ……?」
最後に会った時と随分容姿の変わった彼女に向けてその名を紡げば、カスミは眉を吊り上がらせた。
「カントー地方観測至上一番の寒さだってのに、どっかの馬鹿は半袖のままだと思ったからわざわざ来てやったのよ」
そう言って、カスミは提げていたショルダーバッグからマフラーと長袖の上着を取り出すと、俺の顔に向かって投げつけてきた。
それらを身につけてあったかいと言うと、当たり前だと呆れた声が返ってきた。
そんな彼女の鼻の頭が赤くて、じんわりと胸が温かくなった。