落書き
こんこんという何かを叩く音に本から顔を上げると、正面にある硝子窓の向こうでサトシが手招きをしていた。
なんだろうと思いながらソファから立ち上がり、窓へと近づく。
窓の外は一面雪景色で、結露した窓の外にいるサトシは頬や鼻を赤くしていた。
窓を開けようとするとサトシが手で制してきて、指で下を見るようにジェスチャーをした。
それに従って視線を下へと下げ、窓の縁にあった二文字に瞬きをする。
柊の実で作られた、真っ赤なスキの文字。
顔を上げれば、サトシは少し恥ずかしそうに笑っていて。つられて小さく笑って硝子へと手を伸ばし、冷たい水滴の上に人差し指を走らせる。
そうして書き上げた二文字を前にサトシは目を丸くして、それから可笑しそうに口端を上げた。
その笑いが何だか気に入らなくて、大きく窓を開ける。
「何がおかしいのよ?」
流れ込んできた予想以上に冷たい外気に眉を寄せてそう言えば、サトシは笑いながら私に手を伸ばしてくる。
「ちょっ、冷た───」
頬に添えられた手の冷たさに上げた抗議の声は、手以上に冷たい唇によって途切れたのだった。
キスって書いたから、して欲しいのかと思った。
笑いながらそう言われたのが悔しかったから、噛みつくようにキスをしてやった。