伸ばした手
「ん」
「……なに?」
不意に差し出された右手。意味が分からずにレッドを見上げれば、彼は少し眉を寄せた。
「手」
(単語で返されても分からないわよ。)
そう思ったのが分かったのか、レッドは益々眉を寄せると、諦めたように息を吐き出した。そして、私が文句を言うより先に歩き出してしまった。
「ちょっと、なんなのよ」
そう言ってもレッドは足を止めもしない。むぅと頬を膨らませ、大きな声を出そうとして。
ぶらぶらと体の横で揺れる男のわりには細い手に目がいって、レッドが何を言いたかったに思い至る。
(相変わらず言葉が足りないんだから。)
そう思い、先程のレッドの態度に対して呆れつつも、口元のにやけが止まらない。
「ほんと、しょうがないんだから」
笑いながらそう零して、随分と先を行くレッドの背中を追いかけた。
今は頬を膨らましているであろう彼が、右手に触れた温もりに慌てふためく様子を想像しながら。
追いつくと同時に右手を握り、目を見開いたレッドに向けて強気に笑う。
だけど、するりと絡められた指と耳元で囁かれた低い声に赤面したのは私の方だった。