高鳴る鼓動
「あれ、グミ?」
耳に届いたボーイソプラノの声に心臓が跳ねる。深呼吸をして振り返れば、レン先輩の青い瞳と視線が交わった。
「どうした?今日、レコーディングあったっけ?」
レン先輩が近づいてくるに従って音量を増す心臓に、静まれと繰り返し言い聞かせる。
そうして口を開き、声が震えたものにならないように話す。
「いえ、違います。ただ、先輩達のマスターさんに用があって」
「家の変た……マスターに?」
私の答えにレン先輩は訝しげに眉をひそめて、一体何の用なのかと尋ねてきた。
それに対しての返答を渋ると、レン先輩は益々疑い深い表情になった。
「俺に言えないこと?」
レン先輩は言いながら詰め寄ってきて、反射的に一歩足を引く。
そうすればレン先輩が一歩前に進んで、三歩といかないうちに背中が壁に当たった。
私はもう後ろへ行けないのに、レン先輩は距離を縮めてきて私の顔の両脇に手をついた。
「グミ?」
私の逃亡経路を奪ったレン先輩が、弧を描いた唇で私の名前を呼ぶ。
明るい青い瞳が怪しく光り、私の動きを捕らえる。
「グミ」
ドキドキと心臓が鼓動する音が聴覚を支配する中で、レン先輩の楽しげな声だけはやけにクリアに聞こえた。
レン先輩に会うとどうしてドキドキしちゃうのか聞きに来たんです。
湯気が出そうなほどに顔を赤くしてそう言ったら、レン先輩は驚いた顔をした後意地悪い顔で笑った。