こっちを剥いて
水ポケモンがいたら、他には何もいらない。
視線の先で水ポケモンに囲まれて極上の笑顔を浮かべるカスミを見て、何時だったか彼女がそう言っていたのを思い出す。
カスミの笑顔はきらきらと眩しくて、いつもなら心臓が壊れるんじゃないかってくらいにドキドキするのだけど、今の俺の心中はただただ不愉快なばかり。
カスミが水ポケモンに向ける目には愛情と慈しみが溢れていて。
(いつも俺に向けるのは、不機嫌な目なのに。)
カスミの唇が紡ぐのは、大好きが込められた言葉。
(俺には嫌みとか文句しか言わないのに。)
カスミが楽しそうにするほど、俺の苛々は募っていく。
俺を見上げてきたピカチュウのつぶらな瞳には、いつもと変わらない無表情の俺が映っていた。だけどピカチュウは俺の感情の荒れを感じ取ったのか、ハラハラとした様子だ。
そんなピカチュウの頭をくしゃりと撫でて少し気持ちを落ち着かせ────カスミが水ポケモンにキスをしたのを見た瞬間、体が動いた。
「レッド?」
いきなり腕を掴んだ俺を、カスミが笑顔を曇らせて呼ぶ。
その反応が更に苛々を募らせて、俺はカスミの声を無視して体を引き寄せた。
ポケモンに嫉妬なんて、馬鹿みたいだと思う。
けれど、服越しに伝わってくるだんだん高くなるカスミの体温に勝ったと喜んでいた。