上手くいかない
桃色の頭の上の、兎の耳みたいな紺色のリボン。
視界の中で風に揺れるそれを見ていたら、無性に腕が疼いた。
「ぴゃあっ?!」
無言でリボンを掴むと大きな声を上げた少女───春野サクラに、リボンを掴んだ手を慌てて放す。
頭上からの突然の襲撃に春野は丸く見開いた目に涙と恐怖を浮かべて、木の枝に腰掛けた俺を見上げた。
「あ、いや、えっと、」
真っ直ぐに向けられた視線に口を開いてはみたものの、音となるのは意味の無いものばかりで。
「うずまき……ナルト?」
空耳かと思うほどに小さな声に、目を見開く。
そうすると春野は「ちが……った?ご、ごめんなさい」と怯えた様子で問うてきた。
「違うってばよ!!」
そんな彼女に慌てて大声で言い返せば、春野はびくっと体を震わせる。その反応にしくじったと思った時には、時既に遅く。
「サクラー、何やってるの!」
遠くから聞こえてきた山中いのの呼ぶ声に、春野は弾かれた様に走り出した。
その危なっかしい背中を見送りながら、苦い息を吐き出す。
「また失敗したってばよ……」
春野に話しかけようと山中いのを待つ彼女を待ち伏せし始めて三日。
三度目のその言葉を呟いて、もう一度息を吐き出す。
話したいだけなのに、怖がらせてしまう。
笑った顔が見たいのに、泣かせてしまう。
山中の所まで辿り着いて共に歩き出した春野を遠目に見ながら、自分の願いとは裏腹な結果に唇を尖らせ、
「!」
不意に山中の少し後ろを歩いていた春野が肩越しに振り返り、翡翠色の目が俺を捕らえた。
一瞬でその目は前を向いてしまったけど、俺の網膜には怯えの含まれていない透き通った緑色の瞳が焼き付いていて、
「〜〜〜っ」
口元がどうしようもなくにやけるのを感じながら、ばたばたと足を揺らした。
だけど、君と話したいし笑った顔が見たいから。
明日も明後日も、上手くいくまでこの場所で君を待つのだろう。