伝える言葉は
「全っ然、可愛くない」
そう口に出した3秒後、右頬に凄まじい衝撃が襲ってきた。
椅子から転げ落ちた俺を見下ろすカスミの顔は真っ赤で、目が潤んでいた。
「最っっ低っ!馬鹿サトシ!!」
何のアクションも起こせずに茫然と見上げる俺に吐き捨てて、カスミはどこかへと走って行った。
「…………」
「…………」
「な、なんだよ!」
一人と一匹の冷たい視線に声を上げ、立ち上がって服に付いた砂を払い落とす。
叩かれた右頬はまだジンジンと痛みを訴えている。
むすりと頬を膨らませながら地面に倒れた椅子を起こし、今なお向けられる視線に背を向けて座って頬杖をつく。背中に突き刺さる視線が呆れたものになったのがやけに居心地悪い。
「なんで俺が……」
呟いてカスミの姿を脳裏に思い出すと、急に心臓が全力疾走し始めた。
肩の上に下ろされたオレンジ色の髪。
膝上丈の白のワンピースは風に揺れていた。
似合うかと聞いてきたカスミにすぐには答えることが出来なくて、タケシとピカチュウが賛美の言葉を返すのを耳にしながら口を開くと出てきたのは否定の言葉。
「……似合ってるっての」
今更ぽつりと零した本心は、誰に聞かれることもなく霧散した。
いつだって音になるのは、心とは反対の君を傷つける言葉ばかり。
心の中には、伝えられなかった言葉と君への想いだけが残っていく。