雨よ止まないで
「ほら、タオル」
差し出された柔らかなタオルを受け取り、水が滴る髪に当てる。
ピッという音に視線を投げれば、首にタオルをかけたサトシがリモコンで暖房のスイッチを入れていた。
「俺、着替えてくるから適当に座ってろよ」
そう言って二階の自分の部屋へと行くサトシを見送り、私はリビングの中でどうしようかと一人佇む。
サトシの家には小さな頃に何度も来ていた。けど、歳を重ねるうちにそんなことも無くなっていた。
水を吸った制服をタオルで拭いて、躊躇しつつも足を進める。
そして、暖房の風が当たる大きめのソファの端に腰を下ろした。
息を潜めて部屋を見渡し、窓の外で降り続く雨を眺める。
小さく息を吐き出すと、無意識のうちに張っていた糸が緩んだ。
力を抜いてソファの背中に身を沈め、目を閉じて息を吸う。
まだ緊張感が抜けきってはいないけれど、体に触れる空気はとても心地の良いもので。
耳に入ってくる雨の音に、感謝の言葉を述べた。
微睡む意識の中で、誰かが名前を呼ぶ声を聞いた。
その声はとても柔らかく優しげで、わたしの体は温かな幸福感に満たされたのだった。