相合い傘の魔法
コンクリートの地面に出来た幾つもの水溜まり。
衣替えをして剥き出しになった肌を冷気を含んだ空気が撫で、傘から滴り落ちる水滴が肩を濡らしていく。
「ねえ」
不意にすぐ近くから聞こえた、少し不機嫌な声にびくりと体を震わせる。
カスミ、と自分の名前を呼ぶ声に一つ息を吸って顔を上げる。
途端、目の前にあった黒い瞳に息が詰まった。
「何で離れて歩いてるの。肩、濡れてる」
そう言ったレッドにそんなことないと早口に言い返し、彼と逆の方を向く。
そうしなければ、顔が赤くなったことに気づかれてしまいそうだったから。
けれど。
「濡れてる」
「え、わっ!?」
肘を引っ張られて、背中に温かな体温が触れる。
勢いよく頭上を仰げば、さっきよりも幾分不機嫌な黒い瞳。
「風邪、引いたりしたら困る」
「わ、分かったわよ!」
真剣な顔でそんなことを言われたら、大人しく隣を歩くしか無くて。
赤い顔も、早い鼓動も気づかれませんように。
頭上を一つの傘に守られて歩きながら、心の中で強く願った。
指先が触れ合うほど、いつもよりずっと、ずっと近い距離。
隣を歩く君がいつもよりご機嫌そうなのは、きっと気のせい。