降りしきる夜雨
傘を差していってくださいという、自称右腕の言葉を無視して外へ飛び出したのは5分ほど前のこと。月や星を隠した雲から降ってくる大粒の雨が、頭のてっぺんから足の先まで俺の体を濡らしていた。
普段よりも濃い夜の世界を、前だけ向いて走る。
行く先を照らす街灯はまばらで、さっきから何度も水溜まりに足を突っ込んでいた。
新調仕立てのスーツは水を吸って重たく、シャツが肌に張り付いて気持ち悪い。それでも、足はひたすらに前へ進む。
目に入った雨を手の甲で拭った時、視線の先で温かな光が輝いた。
『あのね、私……』
耳の奥で響く、愛しい京子の幸せが滲んだ声。
続いた言葉に口元がだらしなく緩む。
息を上げて玄関扉を開け、駆けてきた君を強く抱きしめるまで、あと少し。
腕の中で嬉しそうに笑う君がどうしようもなく愛しくて。
そのお腹に宿った命と君を、必ず守り抜くと固く誓った。