揺れる傘揺れる恋
どくどくと自分の心臓の音が響く中で、しえみの手を離れた和傘が地面にあたる音を聞いた。
燐、と呼ぶ声は戸惑いの色に染まっている。
背中に回した両の手は、固くなって動かない。
頭の中では燃えてしまいそうなほどの熱と、それと同じくらいの冷たさを感じていた。
俺は、なにをしてしまったのか。いや、してしまっているのか。
体や服が雨で濡れていくのを感じながら、今の状況を作り出した理由を自分に問いただす。
「燐……?」
鼓膜を震わせた声に視線を絡ませれば、しえみの瞳は不安げに揺れていた。
不安、困惑、それから、恐怖。
羨望と好意の視線を受けるアイツには向けられたことのないその目に、微かな優越感が湧き出した。
風が吹いて、足下の二つの傘が揺れる。
その風は、細い糸の上に立った俺を落とそうとしているようだった。
開かれた赤い唇を塞いだらどうなるのか。
その思考は、自分の中の黒い感情に気づくには十分すぎるものだった。