君を待つ雨の午後
右の手首に巻いた時計が示す時刻に、一つ溜め息を漏らす。
ついと視線を硝子窓に投げれば、硝子の向こうではしとしとと雨が降っていた。
様々な柄の傘を差した人々が行き交う道に目を走らせても、待ち人の姿は見あたらない。
既に、待ち合わせ時刻は一時間も過ぎている。
最初に頼んだケーキセットの紅茶は随分と前に冷めてしまった。
けれど、レッドから連絡は入らない。
(今日はいったい何処でバトルをしてるんだか。)
びしょ濡れになってバトルをしているレッドの姿が頭に浮かび、そっと息を吐き出す。
こんなに雨が降る中で、彼女との約束をすっ飛ばして。
そんなレッドに腹が立たないと言えば嘘になる。
だけど、雨なんてお構いなしに楽しそうに夢中でバトルをするレッドの姿を頭の中に浮かべたら、不思議と苛々とした気持ちが軽くなる。
その代わりに呆れにも似た気持ちが沸き上がってくるのだけど。
テーブルの上の携帯が、メールの着信を告げる。
ディスプレイには、待ち焦がれた彼の名前と謝罪の言葉。そして、
『すぐ行くから、帰るなよ!』
その言葉に口元を緩めながら、追加の飲み物を頼むべくメニューを手に取った。
テーブルには、湯気を立てる珈琲カップが二つ。
これが冷める前に来なかったら、昨日見つけた服を買って貰おう。