こんな雨の日には
「雨、止まないわねぇ」
窓際で体育座りをして外を見ていたカスミが零した言葉に、読んでいた漫画から視線を上げる。
「そりゃあ、降水確率100%だったからな」
昨日、今日とお天気キャスターの美人なお姉さんが笑顔で言っていた予報数値を言うと、カスミがじと目で見てきた。
なんだよと問いかければ、暫く黙してから溜め息を吐き出して何でもないと答える。そしてまた元のように窓の外を眺め始めた。
その横顔は少し哀しげで、艶やかなリップを塗った唇は悔しそうに結ばれていて。
「そんな落ち込むことか?遊園地くらい、いつでも行けるだろ」
ベッドの上で体を起こしながら言うと、カスミが上目遣いに俺を見た。
「くらいってなによ。楽しみにしてたのに」
眉を寄せて少しきつい口調で言ってきたカスミに、だからってよと言い返す。
「彼氏ほっといて、ずっと外見てるのはどうかと思うぜ?」
「っ!」
右手を掴んでぐいっと顔を寄せると、カスミは大きく目を見開いた。
その碧色の瞳に映る俺は、それは愉しそうに笑っていて。
「あ、あんただってさっきまで漫画読んでたじゃないの!」
「それはカスミが相手してくれないからだろ」
「なにそれ……っ!!」
顔を赤に染めて言い返してくるカスミの唇を無理矢理塞ぐ。
実を言えば、カスミが家に来たときから誘うように艶めかしく光っていたその唇に触れたくて仕方なかったのだ。
胸板を押したカスミの左手も捕らえ、指を絡めて、啄むように何度も口づけを繰り返した。
耳に流れ込んでくるのは、窓を叩く雨の音と溶けてしまいそうな甘い声。
たまにはこんな過ごし方も良いんじゃないかと思った、そんな雨の日。