答案返却三分後
(これはヤバい……)
小刻みに震える手で握った英語のテストを見て、冷や汗と共に抱いたのは果てしない恐怖だった。
「ツナ君、大丈夫?」
「あんまり大丈夫じゃないかも……」
席に着く俺の落胆ぶりを見て、京子ちゃんが心配そうに声をかけてくれる。そんな京子ちゃんにぎこちなく笑い、二つに折り畳んだ紙に重い息を吐き出す。
紙の端にでかでかと書かれた赤い数字は、一週間前にリボーンに提示されたものより15点も低いもので。
(一体どんな仕打ちが待ってるんだ……)
数時間後に自分に向けられる危険物の数々を脳裏に浮かべて、その恐ろしさに頭を抱え、
「ツナ君、いっぱい勉強してるのにね」
そんな言葉に顔を上げると京子ちゃんの悲しげな目と視線が交わり、予想外のことに目を見開く。
「えっ、どど、どうして?」
吃りながら問い返すと、京子ちゃんは可愛らしく小首を傾げて口を開いた。
「だってツナ君の部屋の棚、英語の本が沢山あるでしょ?」
その言葉に自室を、棚の中に並べた本を朧げながらも思い浮かべ、
「あ、あれはっ……!」
突然大きな声を出した俺に、京子ちゃんは驚いたようにぱちぱちと瞬きをした。
「あれは、なに?」
そう不思議そうに聞いてくる京子ちゃんに言葉を詰まらせる。
(その本が全部、イタリア語の本だなんて言えるわけない!!)
絶対に口に出せないことを心の中で叫んで、しかし黙り続けるわけにもいかず、必死に脳を働かせてごまかしの言葉を探す。
「ツナく」
「か、買ったけど全然手をつけなかったんだ!」
頭に浮かんだ言い訳を口早に告げて乾いた声で笑うと、京子ちゃんは口を閉じてじっと俺のことを見た。
(呆れられちゃったかな……)
急に変わった空気に二秒も経たないうちに不安を感じ、正しい判断だったとはいえ自分の言った嘘に後悔を覚え始めた時。
「ツナ君っ、今度勉強会しようよっ!」
京子ちゃんが名案とばかりに目を輝かせながらそう言った。そして、驚いて言葉を無くした俺にもう一言。
「ね?」
上目遣いの京子ちゃんに、顔が赤く染まっていくのを感じながら、
「……うん」
それはそれは小さな声で言葉を返したのだった。