Before
ただの悪い夢なら良かったのに。
そう願いながら眼下に広がる、僅か数時間で瓦礫の山と化した里を見る。
しかし現実の世界が願いだけで変わるはずもなく、それを分かっていながらも願ってしまう自分に自嘲の笑みを作る。
そして一度大きく深呼吸をして、復興作業を手伝おうと人の声がする方向へ足を向け、
「サクラちゃんっ!」
上から聞こえてきた声に顔を上げた直後、目の前に落ちてきたオレンジ色に目を見開く。
「サクラちゃん、なにしてるんだってばよ?」
「な、ナルト!?」
驚く私にナルトは首を傾げ、それを見て息を吐き出す。
「復興作業を手伝いに行くところよ。あんたは?」
「サクラちゃんを探したんだってばよ」
「私を?」
疑問符を返した私にナルトははにかむように笑って、少し話そうとその場に腰を下ろした。
少し迷った後その隣に座り、何とも表現しにくい表情で里を見るナルトの横顔を盗み見る。
「俺、何となくだけど、こいつと上手くやってける気がするってばよ」
不意にナルトが呟くように言った言葉の意味が理解できず、数回瞬きをする。
そんな私を横目に見たナルトは、小さく笑いながらお腹に手を当てる。
「今回の闘いでさ、ちょっと自信がついたんだってばよ。……絶対に暴走することがないとは言えないけど」
歯を見せて笑った後に眉を下げてそう続けたナルトから視線を逸らし、自分の左腕へと視線を落とす。
いつか、暴走したナルトによってつけられた疵はすっかり痕も消えた。
だけど心の奥底には九尾の力に対する恐怖心が根付いていて。
そして、ナルトの心の中にはきっと私を傷つけたことに対する罪悪感が残っていて──。
「もし……」
「え?」
私の呟きにナルトが疑問符を上げたのを聞いて顔を上げ、不思議そうに見てくるナルトの目を真っ直ぐ見ながらゆっくりと口を開く。
「もしまたそんなことがあったら、ぶん殴ってやるわ」
(ナルトが誰かを傷つける前に。)
(ナルトが傷つく前に。)
そう決心しながら、その空のような青い目を丸くしたナルトを見て、小さく笑った。