繋いだ手の温度差
歩くたびにガサガサとビニール袋が奏でる音を聞きながら、視線を空に向ける。
真っ暗闇の空には幾数の星が瞬いていて、その幻想的な空に目を奪われる。
「くそぅ、いののやつ……」
瞬間、隣で呟かれた低いドスのきいた声に、意識は地上へと急降下した。
左手にはたくさんの酒とつまみが入ったビニール袋。
右手には俺より一回り小さくて柔らかいサクラちゃんの手。
しかも周りには誰もいないという、ムード的には最高なはずなのに。
(なんで、こんなに喜べない状態なんだってばよ……)
心の中で嘆いた原因は、今頃俺の家で同期の面々と楽しんでいるのだろう。
「絶対仕返ししてやるんだから……」
「いってえっ!!」
不意に強く握られた右手に思わず声を上げれば、サクラちゃんは勢いよく顔を上げた。
そして俺の手を無意識のうちに力いっぱい握っていたのに気づくと、慌てて力を抜いた。
「ごめん、ナルト」
「ううん、大丈夫だってばよ」
謝るサクラちゃんに苦笑いを返すと、サクラちゃんは再びいのに対する怒りを溜め始めた。
そんなサクラちゃんから視線を外して、ふと視線を繋いだ手に落とす。
「手を繋いで買い出し!」といういのの命令もとい嫌がらせを受け、それに従って繋がれた手。
表面上では平静を保っているけれど、心臓は爆発しそうなくらいに鼓動を繰り返している。
────けど。
「ねえ、サクラちゃん」
知らないうちに口から出た声に自分で驚く。
しかしそんな俺に気づくことなく、サクラちゃんはやや不機嫌さを孕んだ瞳で俺を見る。
「なに?」
「えっと、あのさ……」
問うてきたサクラちゃんに慌てて言葉を考えて、だけど焦るほどに言葉は消えていった。
だから言葉を発する代わりに繋いだ手を少しだけ強く握ると、サクラちゃんは不思議そうに俺を見た。
その視線に、サクラちゃんが自分と同じ感情を抱いていないことに気づいて、
「やっぱ、なんでもないってばよ」
そう言って誤魔化すように笑い、握った手から力を抜いた。