赤く染まり始めた世界の中を
窓から差し込む光が廊下に影を落とす。
そんな中をオレは職員室から自分の教室に向かって走っていた。
(怒ってるかなあ……)
走りながら腕時計の時刻を確認し、そう考える。
差し込む光はかろうじて明るいものだが短針は6を回ろうとしていて、すっかり校内に人の気配はない。
目的の組プレートを視界に入れ、走る速度を落とす。
しっかりと閉まった扉の前で立ち止まり、深呼吸をして扉に手を掛け横に引く。
「サクラちゃーん、帰ろー……ぉ?」
無理矢理明るい声で数十分前にここで別れた彼女の名前を呼んで教室内を見渡す。
「サクラちゃん?」
そこにいた唯一の人物は机に突っ伏していて、予想していた怒鳴り声が発せられることはなかった。
そろそろとサクラちゃんの席へ近付き耳を澄ますと、微かに呼吸をする音が聞こえた。
(どうしよっかなあ……)
机の横で考え込み、しかしそのままにしておく訳にはいかず、申し訳なく思いながら細い肩に手を乗せ軽く揺する。
「起きてってばよ、サクラちゃん」
「ん……」
小さな声を出し、身じろぎをしたサクラちゃんがゆっくりと顔を上げる。
「おはよう、サクラちゃん」
その視線がオレに向いた後、笑いながら声をかける。
「……」
「えっ、サクラちゃん!?」
再び机に伏せてしまったサクラちゃんに慌てた。
すると、サクラちゃんは腕の中に埋めていた顔をオレの方に向けて、
「……遅い」
大層不機嫌そうな声で、そう言った。
そして、恨めしそうな目で見上げてくる。
「ご、ごめんなさい」
今日は悪いのは全部オレだったから、すぐに謝罪の言葉を言って、恐る恐るサクラちゃんの表情を伺う。
しばらくの間、サクラちゃんはオレを無言で睨みつけ、諦めたように息を吐きだした。
「なんか奢って」
そして、体を起こして椅子から立ち上がると、それだけ言って扉へ向かって足を進めた。
すれ違うときに見えた、少しだけど頬を朱に染めたサクラちゃんに、胸の奥から温かい感情が湧き上がってきて、
「もちろんだってばよっ!」
自分の席から鞄を掴むと、すでに廊下へと消えた背中を追った。